-前回の続き

ほとんど会話もないまま、ベッドルームへ入った。

ボクは本能のおもむくまま、彼女の衣服を取り去り、小さな肢体を露わにした。
彼女は抵抗することなく、すべてをボクにゆだねていた。

しばらくすると、彼女が抵抗しないだけでなく、何の反応も示していないことに気がつく。

体を起こして顔をのぞく。
まつげが涙で濡れていた。


「どうしたの?」

「・・・ろして」

「え?」

「殺して・・・」

「私を殺してよ・・・」


言葉を失うボクに、彼女は続ける。


「死にたいのよ、私」

「生きてる意味なんてないの」

「もう、存在していたくない」

「ねぇ、殺してよ」

「ケンゴさんならできるでしょ?」

「消えてしまいたいの・・・」


うつろな目をしながら、うったえかける彼女は、いまはボクの腕の中には存在せず、どこか遠くにいるように感じた。

静寂のなか、彼女の嗚咽が聞こえる。
目尻からあふれる涙が、枕カバーに染みを作った。

思いもよらない事態に当惑する。ボクは深く呼吸をして、できるだけ冷静になるようにつとめた。

しばらくして、ボクは彼女の目を見て言った。


「わかった、殺してあげる」

「1千万円用意できれば、そうする」


驚きの表情をのぞかせる彼女にボクは続ける。


「ボクは殺人犯になって刑務所に入る気はないよ」

「そのために証拠を完全に消して、死体を完璧に処分するには、それなりにお金が要る」

「ボクのリスクとかも含めたらそのくらいが妥当だと思う」


「現実」を見失った相手には「とことん現実的」な話をしてみよう。と咄嗟に思いつき、ボクはこう言っていた。

突飛な要求に、とまどう彼女。


「そんなお金・・・あるわけ・・・」


そして、彼女は火がついたように激昂した。


「じゃあ、もう出て行って!」

「殺してくれないんだったら、ここにいる意味ない」

「出て行ってよ!早く!」


彼女は、枕に顔を伏して泣き崩れた。

ボクは所在なくベッドルームを出て、リビングのソファに座った。

どうしてこんなことになったのだろう。
彼女に出会ってから猫の目にように変化する状況に、ボクの頭は、正直ついていけていない。

まず、この状況をどうすべきか考えるが、答えは出なかった。

ベッドルームから声がするので聞き耳を立てていると、こんな深夜でも「彼」からの電話があったようで、彼女が応じていた。

涙声で応じたのを心配したのか、その後も何度か電話があり、彼女が応じる声が聞こえた。

しかし、しばらくすると何の物音もしなくなった。

衣服を取りにベッドルームへ戻る。彼女はすでに寝息を立てていた。


静かに、彼女の部屋を後にした。
もう空が、少しずつ白みはじめている頃だった。




後日に続き。

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