-前回の続き


とても不思議な感覚だった。
まるで、彼女にはボクが過ごした時間と同じ時間が存在していないように感じた。

久しぶりに会った彼女は、最後に会った日のそのままだった。

待ち合わせ場所でボクを見つけると、小走りで近寄ってきて、すぐに腕をからめ、身を寄せてきた。
食事をする場所へ移動する間も、人目を忍んで何度もキスをせがまれた。

うっとりとした視線を送る彼女は、はたして、ボクが「もう終わったんだ」と思うほど疎遠にしていた本人とはとても思えなかった。

メールのことを尋ねると、

「メール見た。返信しなくてゴメンね。」
「私、メールあまりしないかも。」

とだけ答えた。

今日も出張だという「彼」からは、あいかわらずひっきりなしに着信があり、携帯のイルミネーションが光る。
確かに、こちらの相手をしていたら、ボクにメールを送る時間はないかも。とも思えた。

あとは、とにかく「会えてうれしい」と言って、以前と同じように、全身をゆだねボクに甘えてきた。

また「気楽な関係でいたい。」ということを繰り返し、ボク以外にも同じような関係の男性が5人いる。と告げ、
携帯のアドレス帳の画面、「その関係」でグループ分けされている部分をボクに見せた。

彼女に少なからず好意を寄せていたボクは、少し複雑だったが、なぜが「彼」への同情を感じ、それほどショックではなかった。

ボクは、もう少し彼女のことを知ろうと、できるだけ質問をした。

いままでの生い立ちのこと。
普段の過ごしかた。
少しだけ、過去の病気のこと。

彼女は臆することなく、すべて丁寧に答えてくれた。
病気に関しては「解離性ナントカ?」と言い、以前も話した閉鎖病棟の話をした。

実は、以前から見とめていた、左腕に残る無数のリスカ痕について水を向けると、

「消えないよね、これ、他の皮膚を移植とかしない限り」

と、他人事のようにサバサバ答えた。

その日は、あまり酔っていなかったが、半ば強引に彼女の部屋に押しかけた。
いままで放置されていたことに対して、少しの腹いせをしたかったのかも知れない。

しかし、この行動が最悪の事態を招いた。




この続きは、また後日。

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